未公開企業が未公開企業を買収する際の注意点
近年、未公開企業同士のM&Aが水面下で活発化しています。グロース市場の上場維持基準引き上げやVCファンドの満期到来といった背景から、IPO以外のイグジット手段としてM&Aを検討するスタートアップが増加中です。本記事では、未公開企業が未公開企業を買収する際のディール面・PMI面の実務的な注意点を解説します。
未公開企業同士のM&Aが増加している背景
未公開企業同士のM&Aが増えている背景には大きく2つの要因があります。1つ目は、グロース市場の上場維持基準が時価総額100億円に引き上げられたことで、新規上場の目線も上がっている点です。IPO前に規模を大きくしておくニーズから、ロールアップ型のM&Aや対等に近い形での経営統合が検討されるケースが増えています。2つ目は、2015年前後に多数設立されたVCファンドの満期が到来していることです。ファンド期限が迫る中、セカンダリー売却や次号ファンドへの引き継ぎだけでは対応しきれず、M&Aによるイグジットが選択肢に入ってきています。
ディール面の論点:バリュエーションと契約調整の複雑さ
未公開企業同士のM&Aでは、ディール面でいくつかの重要な論点があります。まずバリュエーションの問題です。一方が他方を買収する場合は譲渡価格の算定で済みますが、合併や株式交換の場合は双方のバリュエーションが必要になり、合併比率や交換比率の算出が求められます。対価が現金なのか株式なのかによっても論点が変わってきます。
さらに複雑なのが契約上の問題です。双方にVCが複数入っており、シリーズごとに異なる条件の優先株が発行されている場合、みなし清算条項に基づく財産分配権の調整が極めて難しくなります。異なる投資契約間で矛盾が生じ、デッドロックに陥るリスクもあるため、経験豊富な弁護士の関与が不可欠です。
PMI面の論点:カルチャーフィットとシナジーの具体化
M&A後の統合(PMI)において最も重要なのはカルチャーフィットです。単にP/Lを連結させる足し算ではなく、掛け算の効果を生むためには、経営陣同士がビジネスに対する考え方や方向性をカジュアルに話し合い、相性を確認することが欠かせません。
シナジーについては、買収前から具体的なシナリオを数字に落とし込み、実現のための戦略・戦術を丁寧にシミュレーションすることが重要です。双方がシナジーの内容に合意していないと、実行段階で成果が上がらないケースがあります。特にファイナンス的な観点だけで提携を進め、事業現場とのすり合わせが不足していると失敗につながりやすいと言えます。
スタートアップ特有の課題:経営体制と人の問題
スタートアップのM&Aでは、人の問題がより直接的に影響します。特に経営体制をどうするかは大きなポイントです。買収後に元の経営者にロックアップで残ってもらうケースもありますが、買う側が経営権を明確に握る方がスムーズに進みやすい面があります。
対等合併に近い形で二頭体制になると意思決定が曖昧になりがちです。誰がトップで、旧経営陣がどのような役割を担うのかを最初に明確にしないと、気を使い合って成果が出ないという事態に陥ります。スタートアップは経営者の影響度が大きいため、統合初期の体制設計は特に慎重に行う必要があります。
M&Aを見据えた事前準備のポイント
未公開企業同士のM&Aをスムーズに進めるためには、資金調達の段階からM&Aの可能性を想定しておくことが重要です。投資契約の内容がM&A時にどう影響するか、様々なパターンを事前に理解しておくことが求められます。また、VCとの投資契約に精通した弁護士に早い段階から相談しておくことで、いざM&Aとなった際の調整コストを軽減できます。バリュエーション・契約調整・カルチャーフィット・経営体制の4つの観点を総合的に検討することが、成功への鍵となります。
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