上場とM&Aは、両方、同時に目指せます。
スタートアップのイグジット戦略として、IPOだけでなくM&Aを同時に視野に入れることの重要性が高まっています。日本ではIPOが約7割、M&Aが約3割と言われる一方、アメリカではM&Aが8〜9割を占めます。本記事では、IPOとM&Aを両睨みで経営する際の資本政策やストックオプションの注意点を解説します。
日本でM&Aイグジットが増えている背景
日本のスタートアップにおけるM&Aイグジットは、ここ5〜10年で徐々に浸透してきました。従来、日本のM&Aは高齢経営者の事業承継が中心でしたが、近年はシリアルアントレプレナーの台頭により状況が変わっています。事業を立ち上げてM&Aで売却し、その資金で次の大きな事業を作るという流れが増えてきました。ZOZOの前澤氏による大型売却や、一休のYahooへの売却など、創業者による大規模な売却事例も目立つようになっています。また、経産省のガイドライン見直しでIPO努力義務条項の緩和が進んでおり、M&Aの選択肢がさらに広がりつつあります。
IPOのみを目指す場合のM&A阻害要因
IPOだけを前提とした経営は、M&Aの選択肢を狭めてしまうリスクがあります。最も注意すべきは資本政策です。高いバリュエーションで一気に資金調達した場合、事業計画通りに進まなければ問題が生じます。IPOであれば何とか実現可能でも、M&Aの場合は全株主の同意が必要なため、高値で投資した株主が売却価格に納得しないケースが出てきます。そのため、事業成長に伴って段階的にバリュエーションを上げていく堅実な資本政策が重要です。
ストックオプションの設計がM&Aに与える影響
ストックオプションの取り扱いも重要な論点です。IPOの場合は上場後に行使価格を上回れば利益を得られますが、M&Aの場合はトランザクションが異なります。M&A時にストックオプションの権利が消滅する設計もあれば、行使してキャピタルゲインを得られる設計もあります。経営者は発行時点で、M&Aが起きた場合にストックオプションをどう扱うかを弁護士と相談し、明確に規定しておく必要があります。後から気づいて想定と違う結果になることを防ぐため、事前の整理が不可欠です。
社員のモチベーションとIPO・M&Aの両立
組織マネジメントの観点では、IPOへの期待を持って入社する社員が多い現実があります。IPOが組織の求心力になっている面もあるため、M&Aという選択肢をどう社内に伝えるかは難しいテーマです。ただし、スタートアップの人材流動性の高さや、M&Aカルチャーの浸透とともに、この点は徐々に受け入れられていくと考えられます。M&A先との事業シナジーをしっかり説明できれば、IPOまでの道筋の一部としてポジティブに伝えることも可能です。
スイングバイIPOという新たな選択肢
近年注目されているのがスイングバイIPOという手法です。一旦大企業にM&Aされた上で、その傘下で事業を成長させ、最終的にIPOを目指すという戦略です。M&Aは終着点ではなく、IPOへの中間ステップとしても活用できます。M&Aはスキルの一つであり、IPOと対立するものではありません。経営者は両方の選択肢を柔軟に持ちながら、事業フェーズに応じた最適な判断をしていくことが求められる時代になっています。
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