上場の法則38:52

会社の預金がもうない!プロダクトもない!それでも上場できた理由

2025年4月にグロース市場に上場したデジタルグリッド株式会社。電力のP2P取引プラットフォームを運営する同社は、資金ショートや全従業員の整理解雇といった極限状態を乗り越えてIPOを実現しました。代表取締役CEOの豊田祐介氏が語る、創業から上場までのリアルなストーリーを紹介します。

東大発ベンチャーの創業経緯とゴールドマン・サックスでの原体験

デジタルグリッドは、東京大学の安倍教授が研究していた「電気に色をつけてインターネットのように自由にP2P取引する」という技術がベースとなっています。豊田氏は東大工学部・大学院出身で、新卒でゴールドマン・サックスに入社。デリバティブのセールス業務を経て、再生可能エネルギーへの投資業務に携わりました。その後PEファンドのインテグラルを経て、2017年11月に恩師の安倍教授と再会。その日のうちに事業化を決断し、2018年1月にオフィスを構えて本格的に稼働を開始しました。

創業1年半で資金ショート――プロダクトも売上もない危機

創業当初、デジタルグリッドはVCからの調達を避け、事業会社44社から約5億円のシードマネーを調達しました。1社が支配的にならないよう同業種から2社以上入れるなど、プラットフォームの中立性を守る工夫をしていました。しかしハードウェアとソフトウェアの同時開発で資金が急速に減少し、2019年6月に資金がショート。プロダクトのローンチすら実現できていない状態で、追加で4.5億円の調達が必要という厳しい状況に追い込まれました。

全従業員を整理解雇、3ヶ月で4.5億円を調達した奇跡

豊田氏が代表に就任して最初に行ったのは、全従業員の整理解雇でした。しかし多くのメンバーが業務委託として残り、資金調達が成功すれば給料を支払うという条件で共に戦い続けました。最初の1ヶ月はVCを30〜50社回りましたが全滅。次の1ヶ月で事業会社と既存株主に当たり約1億円の目途が立ったものの、目標には遠く及びません。残り1ヶ月で、初対面から2週間で1億円を出資してくれる事業会社が現れるなど奇跡的な展開が続き、最終的に目標の4.5億円を超える約6億円の調達に成功しました。

電力市場の荒波を乗り越えてプロダクトマーケットフィットへ

資金調達後、プロダクトをローンチして売上が立ち始めましたが、2020〜2021年に卸電力価格が異常高騰し、顧客が一時3分の1に減少する事態に見舞われました。この経験からリスクヘッジ商品をセットで提供するなどプロダクトの改良を重ね、2022年のロシア・ウクライナ情勢による電気代高騰を追い風に急成長。2022年7月期に初の黒字化を達成し、IPO準備へと駒を進めました。

トランプ関税ショックの中での上場――荒波を越えたIPO

監査法人の確保に約1年、主幹事証券の選定にも苦労しましたが、着実に準備を進め2025年4月の上場を実現しました。ただし上場直前にトランプ関税の影響で株式市場が急変。ロードショー時と全く異なる市場環境でのブックビルディングとなり、機関投資家の集まりが想定を下回るなど最後まで予断を許さない状況でした。それでも最終日に狙っていた投資家からのオーダーが入り、荒波の中での上場を果たしました。事業会社中心の株主構成でバリュエーションの圧力が比較的少なかったことも、柔軟な意思決定を可能にした要因の一つです。上場後は蓄電池を活用した調整力事業など新領域への展開も見据えています。

IPOスタートアップ資金調達電力ビジネス上場体験記

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