地方取引所の概要
日本の証券取引所は、東京証券取引所を含めて4つあります。東証以外の3取引所は「地方取引所」と呼ばれ、それぞれの地域に根ざした企業の上場を支援する役割を果たしています。
地方取引所への上場は、東証と比較して上場基準が緩やかであり、地方の優良中堅企業が「上場企業」としてのステータスを獲得する有効な手段となっています。また、東証との重複上場も可能であり、地方取引所に上場した後に東証への上場を目指す企業もあります。
地方取引所の位置づけ
- 地域経済の発展に寄与する企業の上場を支援
- 東証と比較して上場基準が緩やかで中小企業にも門戸が開かれている
- 名証は3市場(プレミア・メイン・ネクスト)、福証・札証は2市場(本則・新興)の市場区分がある
- 東証との重複上場が可能
- 東証と異なり、地方取引所では「流通株式時価総額」基準を採用せず、「上場時価総額」基準を採用するなど特徴が異なる
名古屋証券取引所(名証)
名古屋証券取引所は、中部地方を基盤とする日本で2番目に大きい証券取引所です。「プレミア市場」「メイン市場」「ネクスト市場」の3つの市場区分を有しています。2022年4月の市場再編で、旧市場第一部をプレミア市場に、旧市場第二部をメイン市場に、旧セントレックスをネクスト市場に名称変更しました。
プレミア市場
名証プレミア市場は、安定的かつ優れた収益基盤を有する、名証における最上位の市場です。東証のプライム市場に近い位置づけで、機関投資家の投資対象となる時価総額・流動性とガバナンス水準を備えた企業が上場します。なお、名証では流通株式時価総額基準は導入されていない点が東証プライムとの大きな違いです。
| 項目 | プレミア市場の基準 |
|---|---|
| 株主数 | 800人以上 |
| 流通株式数 | 2万単位以上 |
| 流通株式比率 | 35%以上 |
| 上場時価総額 | 250億円以上 |
| 純資産額 | 連結純資産50億円以上 |
| 利益の額又は売上高 | 最近2年間の利益合計25億円以上、又は売上高100億円以上かつ時価総額1,000億円以上 |
| 事業継続年数 | 3年以上 |
メイン市場
名証メイン市場は、中部地方を中心とした優良企業が上場する市場です。東証のスタンダード市場に近い位置づけとなっています。
| 項目 | メイン市場の基準 |
|---|---|
| 株主数 | 300人以上 |
| 流通株式数 | 2,000単位以上 |
| 上場時価総額 | 10億円以上 ※名証は流通株式時価総額基準を採用せず、上場時価総額(全株式の時価総額)で評価 |
| 流通株式比率 | 25%以上 |
| 純資産額 | 正であること |
| 利益の額又は売上高 | 最近1年間の利益が1億円以上、又は時価総額50億円以上 |
| 事業継続年数 | 3年以上 |
ネクスト市場
名証ネクスト市場は、成長可能性を持つ中小企業向けの市場です。東証のグロース市場に近い位置づけですが、より緩やかな基準が設定されています。
| 項目 | ネクスト市場の基準 |
|---|---|
| 株主数 | 150人以上 |
| 流通株式数 | 1,000単位以上 |
| 上場時価総額 | 3億円以上 ※流通株式時価総額基準なし |
| 純資産額 | 正であること |
| 利益の額 | 基準なし |
| 事業継続年数 | 1年以上 |
福岡証券取引所(福証)
福岡証券取引所は九州・沖縄地方を基盤とする取引所で、「本則市場」と「Q-Board」の2つの市場を運営しています。九州地方の企業の上場支援に注力しており、地域経済の活性化に貢献しています。
本則市場
福証本則市場は、九州を中心とした安定企業が上場する市場です。
| 項目 | 本則市場の基準 |
|---|---|
| 株主数 | 300人以上 |
| 流通株式数 | 2,000単位以上 |
| 上場時価総額 | 10億円以上 ※流通株式時価総額基準ではなく、上場時の総時価総額で評価 |
| 流通株式比率 | 上場株式の10%以上 |
| 純資産額 | 3億円以上 |
| 利益の額 | 基準事業年度の経常利益が5,000万円以上 |
| 事業継続年数 | 3年以上 |
Q-Board
Q-Board(キューボード)は、九州地方の成長企業向け新興市場です。名称の「Q」は九州(Kyushu)のQに由来しています。
| 項目 | Q-Boardの基準 |
|---|---|
| 株主数 | 200人以上 |
| 流通株式数 | 1,000単位以上 |
| 上場時価総額 | 3億円以上 ※流通株式時価総額基準なし |
| 純資産額 | 正であること |
| 利益の額 | 基準なし |
| 事業継続年数 | 1年以上 |
札幌証券取引所(札証)
札幌証券取引所は北海道を基盤とする取引所で、「本則市場」と「アンビシャス」の2つの市場を運営しています。北海道の地場企業を中心に上場支援を行っています。
本則市場
札証本則市場は、北海道を中心とした安定企業が上場する市場です。
| 項目 | 本則市場の基準 |
|---|---|
| 株主数 | 300人以上 |
| 流通株式数 | 2,000単位以上 |
| 上場時価総額 | 10億円以上 ※流通株式時価総額基準ではなく、上場時の総時価総額で評価。アンビシャスからの変更上場は6億円以上 |
| 流通株式比率 | 25%以上 |
| 純資産額 | 3億円以上 |
| 利益の額 | 基準事業年度の経常利益が5,000万円以上 |
| 事業継続年数 | 3年以上 |
アンビシャス
アンビシャス市場は、北海道に関連のある成長企業向けの新興市場です。名称は札幌農学校(現・北海道大学)のクラーク博士の言葉に由来しています。
| 項目 | アンビシャスの基準 |
|---|---|
| 株主数 | 100人以上 または500単位以上の公募・売出し |
| 流通株式 | 基準なし |
| 時価総額 | 基準なし ※「上場時の時価総額は審査要件としない」と札証が明言。新興市場の中でも最も上場しやすい |
| 純資産額 | 1億円以上 最近2年間の営業利益が連続して5,000万円以上の場合は「正」でも可 |
| 利益の額 | 基準事業年度の営業利益が「正」 営業利益が「正」でない場合でも、収益向上が期待できる場合は可 |
| 事業継続年数 | 1年以上 |
| 特記事項 | 北海道に関連のある企業を主な対象 |
アンビシャスの地域要件
アンビシャス市場は、本社が北海道にある企業、又は北海道に事業基盤を持つ企業が主な対象です。ただし、絶対的な条件ではなく、北海道との関連性が認められれば他地域の企業も上場可能です。
地方取引所の新興市場比較
| 項目 | 名証ネクスト | 福証Q-Board | 札証アンビシャス |
|---|---|---|---|
| 株主数 | 150人以上 | 200人以上 | 100人以上 |
| 流通株式数 | 1,000単位以上 | 1,000単位以上 | 500単位以上 |
| 上場時価総額 | 3億円以上 | 3億円以上 | 基準なし |
| 利益基準 | なし | なし | なし |
| 地域要件 | なし | なし(九州関連推奨) | 北海道関連が主対象 |
地方取引所に上場するメリット
1. 上場基準のハードルが低い
東証と比較して形式基準が緩やかであり、中小企業でも上場を目指しやすくなっています。地方取引所の新興市場では、東証グロース市場が課す「流通株式時価総額5億円以上」の基準を採用していません。具体的には、名証ネクスト・福証Q-Board は上場時価総額3億円以上、札証アンビシャスは時価総額基準そのものがなし(純資産1億円以上のみ)となっており、特にアンビシャスは新興市場の中で最も上場ハードルが低い市場として位置づけられています。
2. 地域での信用力向上
地方企業にとって「上場企業」というステータスは、地域金融機関からの融資条件の改善、取引先との信用力向上、人材採用における競争力強化に直結します。地方取引所への上場は、地域社会での企業プレゼンスを大きく高めます。
3. 上場維持コストの軽減
東証と比較して上場維持に要するコストが低く抑えられます。年間上場料、IR活動の範囲、開示資料の作成負担など、総合的なコストが東証より軽減されます。
4. 東証への重複上場の足がかり
地方取引所に上場した後、東証への重複上場を目指すことも可能です。地方取引所での上場経験を活かして、段階的に東証上場に必要な体制を整備するアプローチが取られることがあります。
地方取引所の留意点
流動性と知名度に関する課題
- 東証と比較して売買高が著しく低く、株式の流動性が限定的
- 機関投資家の投資対象になりにくい
- アナリストカバレッジがほぼない
- 全国的な知名度向上の効果は限定的
- IPO時の公募・売出しの規模が限られる
地方取引所の選択が有効なケース
こんな企業に地方取引所が向いています
- 地域密着型のビジネスモデルで、地域での信用力向上を主目的とする企業
- 東証の上場基準は現時点では高いが、まず上場企業としての第一歩を踏み出したい企業
- 事業承継を見据え、株式の市場価格の形成と流動性を確保したい企業
- 地方銀行等からの資金調達において「上場企業」のステータスを活用したい企業
- 将来的な東証への重複上場・市場変更を視野に入れつつ、段階的に体制整備を行いたい企業