グロース市場
グロース市場は、高い成長可能性を有するスタートアップ・ベンチャー企業向けの市場です。利益基準がなく事業計画の合理性を重視する点が特徴で、IPO件数が最も多い市場区分です。
グロース市場の位置づけ
グロース市場は、2022年4月の市場再編により旧マザーズと旧JASDAQ(グロース)を統合して誕生した市場区分です。東証のコンセプトでは「高い成長可能性を実現するための事業計画及びその進捗の適時・適切な開示が行われ一定の市場評価が得られる一方、事業実績の観点から相対的にリスクが高い企業向けの市場」と定義されています。
毎年のIPO件数において最も多くの企業が上場する市場であり、日本のスタートアップ・エコシステムにおいて極めて重要な役割を担っています。
グロース市場の主な特徴
- 利益基準がなく、赤字企業でも上場可能
- 事業計画の合理性と成長可能性を重視
- 上場後も「事業計画及び成長可能性に関する事項」の開示が必要
- 上場10年経過後に上場維持基準の適合状況を確認
形式基準(数値基準)
グロース市場の形式基準は、3つの市場区分の中で最も緩やかに設定されています。特に利益基準が設けられていない点が、成長途上の企業にとって大きなメリットです。
| 項目 | 基準値 |
|---|---|
| 流通株式数 | 1,000単位以上 |
| 流通株式時価総額 | 5億円以上 |
| 流通株式比率 | 25%以上 |
| 株主数 | 150人以上 |
| 事業継続年数 | 1年以上 |
| 純資産額 | 正であること |
| 利益の額 | 基準なし |
流通株式時価総額の注意点
形式基準上は5億円以上ですが、実務上は公開価格の設定段階で市場からの需要を十分に確保する必要があるため、想定時価総額としては数十億円規模が一般的です。VCからの出資を受けている企業の場合、VC持分が流通株式から除外される可能性があるため、注意が必要です。
実質基準(審査の重点ポイント)
グロース市場の審査では、他市場と異なり「事業計画の合理性」が最も重視されます。利益基準がない分、将来の成長可能性に対する審査が厳格に行われます。
1. 事業計画の合理性
グロース市場特有の審査項目として、事業計画の合理性が詳細に検討されます。具体的には以下の点が重視されます。
- ビジネスモデルの優位性・独自性
- ターゲット市場の規模と成長性(TAM/SAM/SOM)
- 売上計画の根拠となるKPIの合理性
- 競合分析と競争優位性の持続可能性
- 経営陣の能力・経験・実績
- 主要な事業リスクとその対応策
2. 企業の継続性
赤字企業の上場が認められるグロース市場では、事業継続に必要な資金が確保されているか(ランウェイ)が重要です。上場時の公募増資による資金調達計画も含めて、事業継続性が審査されます。
3. 内部管理体制
スタートアップであっても、上場企業として必要な内部管理体制の整備が求められます。特にJ-SOX対応(内部統制報告制度)への準備状況、適時開示体制の構築が重視されます。
4. コーポレートガバナンス
グロース市場ではCGコードの基本原則のみが適用されますが、取締役会の実効性、監査役(監査等委員)の独立性、関連当事者取引の管理など、基本的なガバナンス体制は求められます。
事業計画及び成長可能性に関する事項の開示
グロース市場の上場企業には、「事業計画及び成長可能性に関する事項」の継続的な開示が義務付けられています。これはグロース市場特有の制度であり、上場後も毎年の更新が必要です。
| 開示項目 | 内容 |
|---|---|
| ビジネスモデル | 事業の内容、収益構造、ターゲット市場 |
| 市場環境 | 市場規模、競争環境、業界動向 |
| 競争力の源泉 | 競争優位性、参入障壁、知的財産 |
| 事業計画 | 成長戦略、主要KPI、投資計画 |
| リスク情報 | 事業上の主要リスクと対応策 |
| 進捗状況 | 前年度の計画に対する実績と差異分析 |
上場維持基準と10年経過後の確認
グロース市場には独自の上場維持基準があり、特に注目すべきは上場10年経過後の基準適合確認制度です。
| 項目 | 維持基準 |
|---|---|
| 流通株式数 | 1,000単位以上 |
| 流通株式時価総額 | 5億円以上 |
| 流通株式比率 | 25%以上 |
| 売買高 | 月平均10単位以上 |
| 上場10年経過後 | 時価総額40億円以上(2025年3月以降段階的適用) |
上場10年経過後の時価総額基準
グロース市場では、上場から10年を経過した銘柄に対して時価総額40億円以上の維持基準が適用されます。これは「成長企業向けの市場」というコンセプトに基づき、一定期間内に成長を実現できない企業に対して、スタンダード市場への市場変更や上場廃止を促す仕組みです。経営者は中長期的な時価総額の向上戦略を意識する必要があります。
グロース市場でのIPOの実務
主幹事証券会社の選定
グロース市場へのIPOでは、主幹事証券会社の役割が特に重要です。事業計画の合理性を証券会社が審査(引受審査)するため、自社のビジネスモデルを深く理解してくれる証券会社を選ぶことが成功の鍵となります。
VCとの関係整理
ベンチャーキャピタル(VC)からの出資を受けている企業が多いグロース市場では、IPO時のVC保有株式の取扱いが重要な論点となります。ロックアップ条項の設定、セカンダリーオファリングの規模、IPO後の売却スケジュールなどについて、事前にVCと十分な協議が必要です。
資本政策の設計
上場時の公募増資規模、既存株主の売出し規模、ストックオプションの行使条件など、資本政策全体の設計がIPOの成否を左右します。特にグロース市場では上場後の追加的な資金調達を見据えた設計が重要です。
グロース市場に適した企業
グロース市場が適している企業の特徴
- IT・テクノロジー、バイオテクノロジー等の成長産業に属する企業
- 赤字ではあるが高い成長率を有するスタートアップ
- 独自の技術やビジネスモデルで市場拡大を目指す企業
- VC等からの出資を受け、上場を通じた成長資金の調達を目指す企業
- 将来的にスタンダード市場やプライム市場へのステップアップを視野に入れる企業
グロース市場からのステップアップ
グロース市場に上場した後、企業の成長に伴いスタンダード市場やプライム市場への市場変更(ステップアップ)を行うことが可能です。ステップアップには、変更先市場の上場基準を満たし、東証による審査を受ける必要があります。
近年はグロース市場からプライム市場に直接ステップアップする事例も出てきており、成長企業にとっての重要なキャリアパスとなっています。ステップアップの検討は、上場後3年から5年を目安に開始する企業が多い傾向にあります。